今回は、からだとこころの緊張をほぐす芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)のお話です。
◆芍薬甘草湯◆
▶︎芍薬(しゃくやく)と甘草(かんぞう)の2種類の生薬から構成される漢方薬です。
▶︎昔からこむら返りの薬として有名です。
▶︎胃痛、胆石や尿路結石の疝痛、月経困難症の月経痛、ぎっくり腰など筋肉の急激な痙攣を伴う痛みに用います。
◆芍薬◆
▶︎漢方では芍薬の根を生薬として用います。
▶︎芍薬はからだとこころの弛緩作用とともに、止血作用も併せ持ちます。
▶︎芍薬は血虚(けっきょ:貧血や栄養失調状態)に対する栄養剤である補血剤 (四物湯[しもつとう]、十全大補湯[じゅうぜんだいほとう]、人参養栄湯[にんじんようえいとう])を構成する生薬でもあります。
▶︎芍薬のからだとこころをリラックスさせる3つの作用
1. 横紋筋をリラックス=エペリゾン(ミオナール他)
2. 平滑筋をリラックス=スコポラミン(ブスコパン他)
3. こころをリラックス=エチゾラム(デパス他)
▶︎芍薬に甘草を合わせると、横紋筋をリラックスさせる作用が強くなります。
※芍薬甘草湯がこむら返りに処方される理由
◆甘草◆
▶︎甘草の主成分であるグリチルリチンは、砂糖の50倍とも100倍ともいわれる甘さ
▶︎グリチルリチン製剤の強力ネオミノファーゲンシーは、蕁麻疹などに対する抗アレルギー薬や慢性肝炎の治療薬として用いられます。
▶︎グリチルリチンは腸内細菌によりグリチルレチン酸に変換され、副腎皮質ホルモンの1つであるコルチゾールを不活化する酵素の働きを抑制します。これによりコルチゾールによる抗炎症作用が効果的に発揮されます。
▶︎コルチゾールには、水分や電解質の代謝に関係するミネラルコルチコイド受容体と強力に結合して保水作用を示すという性質もあります。
▶︎甘草は1日6gまで
▶︎甘草を漫然と長期投与すると、グリチルレチン酸によってコルチゾールの働きが長続きする分、水分貯留のために浮腫、血圧上昇、低カリウム血症、尿量減少といった症状を示す偽性アルドステロン症が起こる。
▶︎甘草はからだとこころを温め過ぎず冷やし過ぎず(寒熱中間)、全身に効き(表も裏も)、漢方薬を構成する生薬のバランスを整えるため、多くの漢方薬に用いられています。
※皮膚や筋肉などの体表部を「表」、消化器をはじめとする臓器など身体の深部を「裏」と呼びます。
◆芍薬甘草湯◆
▶︎芍薬甘草湯を1日3回処方すると、それだけで甘草が6gになってしまいます。
▶︎芍薬甘草湯は痛むときに頓服で。
◆芍薬甘草湯から生まれた漢方◆
芍薬甘草湯から生まれた30種類の中で、からだとこころをリラックスさせる効果の高い漢方薬たち
▶︎桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)
芍薬甘草湯の効果をそのまま発揮できる処方です。周囲に氣を遣い過ぎて緊張が取れず、寝ているときに足がつって目が覚めてしまうような人(緊張型氣虚と言います)に用います。
1日3回処方しても含まれる甘草は2gです。
▶︎四逆散(しぎゃくさん)
とても礼儀正しく、パッと見「いい人」なのですが、実は悩みを抱えていてイライラを表に出さない人(イライラ型氣うつと言います)に用います。手汗をビッショリかいていたり、胸脇苦満(きょうきょうくまん:肋骨弓部の重苦しさ)があったりすれば適応になります。
1日3回処方しても含まれる甘草は1.5gです。
※慢性疼痛の患者さんの場合、甘草の過量投与を避けるため、桂枝加芍薬湯や四逆散をベースに処方し、抑えきれない痛みが襲ってきたら芍薬甘草湯を頓服で使いましょう。