マシュマロの薬剤師日誌

病院で薬剤師やってます

重症低血糖治療のバスクミー(点鼻薬)

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低血糖の多くは糖尿病の薬物治療に伴って発生する。

 

一般に血糖値が70mg/dL以下になると、

動悸、

冷や汗、

手足のふるえなどの

  交感神経症状が出現することが多く、

ついで、

頭痛、

目のかすみなどの

  中枢神経症状が表れる。

 

血糖値が50mg/dLを下回ると、

痙攣や

意識消失、

昏睡など、

  他者の介助が必要な重症低血糖に至る。

 

低血糖が起きたときの救急対応について、

日本糖尿病学会

「糖尿病診療ガイドライン2019」では、

経口摂取可能な場合には、

ブドウ糖などの糖質を摂取させ、

意識障害により経口摂取が難しい場合には、

介助者によるグルカゴン製剤の投与や、

医療機関での救急処置が必要になるとしている。

 

グルカゴン製剤は、

これまでバイアル入りの注射薬のみだったため、

家族が注射の手技を習得しなければならず、

また、

注射を行うまでの準備などに時間がかかるのがネックだった。

 

 

バクスミーは、

2020年10月に発売された、

国内初のグルカゴン点鼻薬である。

煩雑な手技を必要としない点鼻デバイスで、

重症低血糖の救急処置が速やかに行える。

 

1回使い切りの薬剤で、

ブドウ糖と一緒に、30℃以下の室温で携帯するよう指導する1)。

製薬会社の説明資料を使い、

保管方法や使用手順を家族と確認しておくよう伝えたい。

 

 バクスミーは、

承認時の臨床試験において、

成人1型・2型糖尿病患者の

インスリン誘導低血糖の治療の成功割合について、

グルカゴン注射薬1mgに対して

非劣勢が検証され、有効性が確認された。

 

ただし、

これまでのグルカゴン注射薬同様、

飢餓状態、

副腎機能低下症、

アルコール性低血糖の場合には、

  血糖上昇効果は期待できない。

 

 点鼻薬であり、

患者自ら投与することもできるが、

 

製薬会社によれば、

低血糖が起こり、

自身で糖分を経口摂取できない、 

意識がはっきりしない、

患者自身で対処できない――

  など他者の介助が必要な状況を使用の目安としている1)。

 

使用時の注意点としては、

投与する直前に包装用フィルムを剥がして

容器を開け、

人指し指と中指を容器先端に添え、

親指で容器の注入ボタンを持ち、

容器の先端を左右どちらかの鼻腔に入れる。

 

指が鼻に当たるまで挿入したら、

注入ボタンを最後まで押し切り、

噴霧が完了する。

 

空打ち操作は必要なく、

噴霧は1回のみ行う。

 

グルカゴンは鼻粘膜を通じて

受動的に吸収されるため、

患者は吸入しなくてよい。

 

 

 バクスミーの投与後、

患者の意識が戻った場合には、

上半身を起こして、

低血糖の再発や遷延を防ぐために

十分な量の糖分を摂取させる。

 

意識が戻らない場合には、

患者の体と顔を横向きにして寝かせ、

いずれの場合もすぐ主治医に連絡する1)。

 

投与によって効果が得られなかった場合には、

追加投与による効果は期待できないため、

直ちに医療機関を受診する。

なお、

感冒による鼻炎がある患者への臨床試験において、

感冒や鼻炎薬の影響は見られず、

鼻炎がない場合と同等の効果が得られると考えられている1)。