政府は、
「新型インフルエンザ等対策特別措置法」に基づき、
国民の45%に相当する5650万人分の抗インフルエンザ薬を備蓄目標量に設定しました。
うち約1000万人分は流通備蓄薬とし、
約4650万人分を国と都道府県で備蓄しているます。
備蓄しているのは、
●タミフル(一般名オセルタミビルリン酸塩)の錠剤およびドライシロップ、
●リレンザ(ザナミビル水和物)、
●ラピアクタ(ペラミビル水和物)。
ちなみに、
承認後5年程度経った薬が備蓄される仕組みなので、
ゾフルーザ(バロキサビルマルボキシル)は現時点では備蓄品目になっていない。
2005年に始まった抗インフルエンザ薬の備蓄に費やした国費は、購入費だけでおおよそ800億円。
ここに保管費や輸送費などが上乗せされる。
しかも、使用されることなく期限を迎えると、
巨額を投じた備蓄薬がただ廃棄されています。
2006年に購入された1093万人分(約200億円)のタミフルは
16年に期限切れとなり、
18年には1123万人分(約220億円)、
19年には527万人分(約100億円)が
期限切れとなった。
同様にリレンザも、
16年に59.5万人分(約15億円)、
17年に75万人分(約18億円)が廃棄され、
22年には14.3万人分、
23年には215.7万人分(約54億円)が
使用期限を迎える(図1、2)。
実は備蓄される抗インフルエンザ薬は、薬価よりも安い金額で購入されている。
具体的には
タミフルは薬価の約65%、
リレンザは約80%の価格です。
価格が安いのは、
市場に流通させないことを条件に国が直接製薬会社と価格交渉しているから。
ここで決まった金額が、
全国の自治体が購入する場合にも適用される仕組みだ。
この条件があるため、購入した都道府県は、
使用年限が迫ってきた薬剤を市場に放出したり、
備蓄以外の目的に使ったりすることができない。
大量の備蓄薬が安価に市場に流れれば、
医薬品卸ルートで通常価格で購入する医療機関が減り、市場が混乱する。
それを避けるために、
製薬会社は備蓄薬の市場流通の禁止を条件にしているわけです。
このような大量廃棄の事態に陥ることは当初から予想されてはいた。
備蓄を開始した2005年当時は、使用期限が5年だったため、2010年には期限切れを迎える備蓄薬が出始め、大量の薬が破棄される。
そこで2008年には、厚労省が備蓄薬のタミフルの使用期限を5年から7年に延長。
13年には、さらに10年に延長した。
リレンザに関しても同様に、2009年に使用期限が5年から7年に、
2013年には10年に延長されている。
しかし当然のことながら、こうした問題の先送りにも限界がある。そして、10年目を迎えた2016年から続々と抗インフルエンザ薬の大量廃棄が始まった。
もちろん廃棄したのと同じ分を新規に購入し備蓄する必要があるため、今後も莫大な費用が新型インフルエンザ薬に投じ続けられることになる。
備蓄のコストを抑えるべく、
厚労省は2019年1月に原薬で備蓄することを認めた。
これは国内に製造工場ができ、安定な製造体制が確保できるようになったためだ。原薬の状態で保管すれば、保管スペースが少なくて済み、その分のコストを浮かせることができる。原薬保管の方が、備蓄期間をさらに延長できる可能性もありそうだ。
インフルエンザA(H1N1)pdm09型のパンデミックから10年。
もし再び日本で新型インフルエンザによるパンデミックが起こると、全人口の最大25%の約3200万人が感染し、最大で65万人が死亡するという推計もある。
そうした危機的状況を想定すれば、抗インフルエンザ薬の備蓄を中止することは現実的ではない。
しかしだからといって、未使用薬が使用期限を迎えるとただ廃棄されるという現実は看過できない。
原薬備蓄も抜本的な解決になっているとは言い難い。
備蓄薬とは別に、毎年大量の抗インフルエンザ薬が使用されている我が国だからこそ、国と製薬会社・卸が協力して流通を工夫すれば、ある程度、薬剤を無駄なく使用する仕組みができるのではないだろうか。